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8575(旧:天秤)のブログです。
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終わらないなぁと思って書いていたら朝の4時でした
なんということ……
途中まででも良いから晒しておけば
プレッシャーみたいなのかかるかな、と思ったので
晒しておきます

拍手ありがとうございます……
実質更新できてないサイトですいません^^;
春休みになったらどうにか!と
思ってます……


続きには冊子に載せるために書いてるものの
途中まで(書いたところまで)を載せます
まったくもって途中なので
終わっていない作品を読むのはちょっと、という方などは
書き終わったものも載せるつもりですのでそちらをどうぞ



海処


 講習には高校三年の夏休みとは思えないほど、人がいなかった。蝉の鳴く声が響く教室。やる気が出ないとひそかにぼやいた先生は、プリントでどうにか涼しさを得ようとしている。自分と他数人がプリントの上にシャーペンを走らせて書く年号。記憶が曖昧で自信のなさが明らかな数字の積み重ねを書く音よりもずっと強くて爽快な、野球部のボールが打たれた響き。サッカー部の監督の怒鳴る声。吹奏楽部が窓を開けて響き渡らせる、テンポのあわないマーチ。教室のドアを全開にしても、まったく吹く気配のない風。痛いほど射してくる、太陽の光。すべてが夏を、暑さを助長するものとなっている。そしてなにより、疲労感を増す原因になっていた。
「そのプリント終わらせたら、今日は終わるか……」
 呟いた先生の方を一瞬見て、視線が合わさる。それを紫は少しも恥とは思わないようにした。先生は特に何も言わず、同意が得られたわけでもないのに「そうするか」と決めた。その横顔が誰より晴れ晴れとしていて、笑いそうになるのを、どうにか堪えた。
来なかった生徒のおかげで、早く終わった解放感を味わいながら廊下を歩く。日本史は好きだけれども、年号が頭に入らないから困る。紫は数字が苦手だ。だから数学ができない、と思って常々授業を受けていた。それは去年までの話であって、今はこうして英語を除けば好きな教科だけ勉強していられる。とにかく、好きな日本史のプリントは余った数枚を貰うことができた。やるかどうかは定かでないけれども、きっと後で役に立つ。そんな適当な考えでもって、家まで帰ろうと階段を降りていく。玄関の自動ドアが反応してくれれば良い、と思いながら。
 ある程度清潔感のある校舎に、ほどほどの学力とそれなりに部活を楽しめる環境があれば、学校はそれで良いと紫は思う。同級生も当然入学した市内一の進学校は、宿題が山のように出るらしい。確かなことは入学するだろう弟に聞けばわかることだった。あえて聞くつもりはなくても、話題にあがらないことはないと思う。
紫は人よりできない自覚を持ち歩いて勉強に追われ、教師に呆れられた顔をされるのが嫌だった。それだけだ。制服のデザインがかわいいわけでもない。むしろ、中学校とほとんどかわらないデザインだ。その上スカートがチェックなわけでもなく、リボンやネクタイがついているわけでもない。セーラーならまだしもブレザーの制服は、寸胴さを引き立てるだけで、特にメリットはなかった。そして、ひたすらにやりたい部活があったわけでもない。吹奏楽部だった今年の春までを、思い出しながら足を進める。その途中で、耳慣れた数人の声が聞こえて紫は廊下を進んだ先にあるもう一つの階段から帰ろうと歩みを速めた。ひたむきなみんなが眩しかった。

 先生は、優しかった。選択教科で美術をとっていた紫には、部活でしか関わりがなかったけれども、部活は春までの生活で睡眠と同じくらいやってきた。言い過ぎだと思われるかもしれなくても、一日五時間も寝ていれば良い方の紫にとっては、むしろ部活の時間の方が長かった。それだけの時間を過ごして、突然辞めると口にした紫を、とがめなかった。
「どうして辞めたいと、思ったの?」
「勉強と、両立できませんでした。……でも、それは部活のせいじゃないんです」
と震える声で口にした。付け加えるように「私が、悪いんです」と口にした後から、喉が乾燥してひどく痛んだ。
 (水がほしい)
そう思いながら、スカートの上で手を強く握った。紫より背丈が低い先生が、「わかっているなら、続けられないの」と静かに問いかけた。穏やかな声で叱り、それにいつも怯えていた頃を思い出しながら、ゆっくりテーブルに視線を落とした。嘘をついている。その意識はありながら、紫は心の中で一言も学校生活に口を出したことがない父に謝り続けながら、理由を乾いた喉から絞り出した。それ以上の追及はされないまま、その数分後に紫は音楽室をぼんやりとした表情と足取りで出た。母が、本当の理由を知っている。それを言うと母に嘘をついて、先生には嘘の理由を口にした。嘘の理由には父を使った。昔見たアニメの女の子が、自分と同じように嘘の連鎖にはまっていたのを思い出す。
(それでも、もう、もう私は辞めたんだ)
 退部届も出した。先生は受け取った。きっと担任には提出されないだろうことをわかっているけれども、紫は関係ないと強く思っていた。
 辞めたという解放感で、学校から家までの道のりを歩く。爽やかな気持ちでいるはずだと言い聞かせていたはずの紫の目から、涙が出る。我慢し続けた手首の痛みを医者にみせて、腱鞘炎のくせがついているから、もう部活をやらないようにと言われた時。その帰り道でも、家に帰って状況を口にしても、涙は出なかった。ただテレビを見ながら「終わりって、急だ」と呟いて、弟に微妙な表情をさせたことは反省している。
(ぜんぶ、終わったんだ)
薄暗い帰り道でせわしなく通り過ぎる車の誰もが、見ていなかった。見ているはずがない。ただ女子高生が少しだけ俯いて歩いているくらいにしか、見えていない。悔しさと嬉しさと不甲斐なさと寂しさが一緒になってわけのわからない感情が渦巻く。それをぶちまけないよう、必死なことなんて、他人に知られない方が紫にとっても良かった。
(勉強、しなきゃ)
 しゃくり上げるのを我慢して、咳きこみながら紫はぼんやりと同じ言葉を頭の中で繰り返した。春、とにかく紫はぼんやりとしてそれでいておそろしいほど明確な思い出を胸に今までテストの数日前にしか意識しなかったことを決意していた。

(あの決意は、どこに行ったのやら)
 玄関を出て坂を下りながら、春のことを思い出して紫は馬鹿らしいと思っていた。結局勉強が格別好きでもない自分は、入れそうな大学をターゲットにして適度に好きな教科の勉強をしている。
「汐見」
 振り返ることを躊躇するのは一瞬で、特に笑顔になるわけでもなく声のする方を向く。人に後ろを歩かれるのが苦手な紫の耳が拾っていた靴音の正体が、そこに立っていた。
「水橋」
「ヒマ?」
 水橋涼と紫は、中学校からの付き合いだ。同級生の時もそうでない時も、お互い適度に同級生を続けてきた。夏休み前に青春の一部とも言える部活動を終えた他の同級生と、水橋は違った。たった五人の科学部で部長を今もしている。大会はずっと先の十一月だからまだ部長だと、紫に言ったことがあった。背も高い、運動も勉強も適度にできる。「科学部なのが残念だよね」なんて言われているのを、自覚している。それで辞めるくらいなら、入部するわけもない。水橋は部員もしつこいと思うほど動作テストをするのが好きな、ロボット大会入賞の立役者だった。
問いかけに素直に頷きかけて、頭の中で紫は先の展開を予測する。お互い特に何の下心があるわけでもない。それでも、噂がないと生きていけない類の人間は「また水橋と汐見がよりを戻した」と芸能人の熱愛をすっぱ抜いたくらい嬉しそうに口にする。そういうのに興味がない人間の組み合わせによくそんな興奮できるな、と思う。
「……ひま、だね」
「三崎行こうぜ」
 適当にあしらえば良い、という結論が出て事実を肯定した紫と違って、水橋の中で既に答えは決まっていたらしく、いつものように誘われる。三崎商店は帰り道の途中にある海が見える駄菓子屋で、何度も訪れたことがある。二人でも、一人でも、弟や妹を連れて行ったこともある。紫の祖母より十は年上だろう女性が、一人で営んでいる。家の奥からはここ数年テレビの音が聞こえるようになった。夏はもっぱら高校野球の声援とアナウンサーの声がしている。
「暑いよ、今日」
 三崎商店に行く、と決める。それは二人で学校からある程度の距離を歩いて三崎商店に行く、ということになる。家の近くにバス停がある紫は、暑い日はバスで家の近くまででも良いから楽をしたい気持ちがある。三崎商店を通り過ぎるのはめんどうだし、水橋に余計な出費をさせるのも気が引けながら、口にしてしまう。そのくらい、暑いと感じていた。木陰で立ち止まりながら、汗と湿気でくっつくブラウスの袖を肘までまくる。
「自転車、つかう?」
 誰の、と聞くより早く目にとまった木陰に置いてある自転車に紫は顔をしかめた。この自転車は、数か月前の雨の日からこうして木陰に放置されていた。誰のかもわからず、もしかすると盗難自転車かもしれず。壊れて動かないのなら意味がない、と言わんばかりの顔をして黙る。そんな紫を見て沈黙を肯定ととったのか、学生鞄を道路に置いて水橋が自転車に手をかけた。
「え、乗るなんて言ってないから!」
「心配いらないって、チェーンが落ちてるだけだ」
「いや、きたないでしょ」
「わかってる、三崎で手洗うから」
 何を言っても無駄か、と諦めた紫の視線の先で水橋は楽しそうに自転車を見つめている。ギアの部分をいじったかと思うと、そこから先は流れるように作業が進んでいった。チェーンがあっさりと緩み、歯車のような部品へとゆっくり絡められていく。ペダルを逆方向にまわすのを数回やって、立ち上がった水橋の横顔がひどく満足そうで、思わず気が抜ける。
「終わったの?」
 問いかけに頷いて、水橋が跨る。跨って黙っている後ろ姿はひどく滑稽で、つい笑いそうになりながら数秒間お互い何を言うわけでもなく沈黙を守った。
「乗って?」
「自転車の二人乗りは、二万円以下の罰金か科料でしょ」
 空気を読めてない、というのはまさしく自分のようなことを言うと確信しながら紫は首を横に振った。
「……ロマンもへったくれもないな」
「危ないから、引っ張って帰りにでも乗ったら?」
 
 

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誤字脱字などありましたらすいません^^;
打ってる最中はなかなか気が配れないうえに
深夜なので眠気が……

夏の爽やかさとうざったいくらいの情景描写をしていた
昔に帰ろうという自分内での意識で書いてるんですが
どうにも情景描写がしょぼい気がします

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