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ほんと、すいません
企画ラッシュをそろそろ乗り越えられそう、というか乗り越えられました
一応、無事に……無事に?
ともかく、異種間愛と呼べるのかどうか不明ですが
いや、異種は出てるし
人もいるんですけど、え……愛?
なんかやたらと長くなった件
序盤の2ページくらいが説明に使われているあたり
あ、ワード換算ですページ数は
とても残念だ……いや、もう4ページでやめとこう
書き足すと余計に意味がわからなくなるんじゃないかな
でも、個人的には気に入ってます……
この意味の分かんなさ具合が……あれ^^
追記には作品があります
企画に出すもので
異種間恋愛ようするに人間となんか別のものが恋愛、愛情を交わす
ってな感じです
愛情交わすはずがかわし切れてないのと
主人公、兄、異種、ばあちゃんという
どこでどう組み合わせるのか、というようなメンツになってしまいました
プラス、尻切れトンボっぽいと言われたら
もう、弁解のしようがありません
一応、苦手な方はご注意ください
樅山一家とまっくろの烏丸
ある日、カラスと本気でやり合う同い年くらいの男を、九治は山で見た。
「なんじゃ、ありゃ」
まずアホらしすぎて、できることなら近寄りたくないと九治は思っていた。だが、そこを通らなければ大きく回り道をして行くべき場所へ行くしかない。九治の祖母のはな江は、九治の母であり彼女の娘である絢子の「一緒に住んだ方が楽なのに」なんていう言葉をまったく聞かず、山の中に住んでいる。はな江の住むそこは、彼女が愛する夫と共に暮らした場所だからだろう。そう、九治は思っている。
はな江の家に届け物をする役目が、次男である九治にまわってきたのは、最近のことだ。兄の八雲が、地元以外の大学へと進学したのが始まりである。それが聞けば周囲の大人がそれなりに盛り上がる国公立だから、厄介なのだった。わざわざ大学名を出すのは少し、と九治は思って「あぁ、受かりました」ぐらいまでしか話していなかったはずである。
しかし、なぜか樅山家から道路を挟んで向こう側のちびっ子までもが、兄の合格した大学を知っている。
「くーちゃんのお兄ちゃん、すごい大学に行ったんだね!」
そういい笑顔で言われては、九治もたまったものではない。何度言い聞かせても「きゅうじ」を認識せず「くーちゃん」と呼ぶのなんて、もうどうだってよかった。
「あー。そ、そうなぁ」
そもそも大学がどういう場所なのか。大学で八雲が何を勉強しているのか。大学がどこにあるのか。三、四歳の子どもたちがわかっているのか、と聞かれればまず十中八九わかっていないだろう。九治は曖昧な返事をしながら、頷くというか項垂れるように、首を動かした。九治とて詳しいことを知っているわけではなかったが、なんとなく気疲れもするのだ。
最近あった町会の夏祭りなんかもう、最悪だった。やたらめったら近所の人々につかまったのである。そしてそのたびに、八雲についての話を聞かされたし、八雲についての質問もされる羽目になる。
神輿をかつぎ終わり、ビールを飲んで上機嫌のおじさんたちは「やっちゃんは頭が良いから」と何度も繰り返していた。顔を赤くして話す彼らの輪に引っ張り込まれて酒臭い息に対して九治は適度に頷いた。酒に酔った人間の典型例としてあげられるタイプばかりだ。まさしく、何度も同じ話をする。しかし、そんなことを指摘すればきっと「良いから聞いとけ!」と言われるがオチなのだ。黙っているだけもなにか、と思った九治が詳しく聞けば、ルービックキューブが一分以内にできる、だとか。花札のこいこいでやっちゃんに勝てるヤツがいなかった、だとかいうことばかりである。そもそも、ルービックキューブは目隠しでやるクラスメイトがいたし、一分を切ったというのも正確に時間を計っているか、近所の人々では定かでない。こいこいに至っては、頭が良いというより、あれは引きの強さだとかそういうものだと九治は思う。
まぁ、そういうところも含めてできる男という八雲を、まわりが気にするのは、当然と言えば当然だと九治も思ってはいる。
「あら、キューちゃん!」
絢子に頼まれて焼き鳥を買いに行けば、手伝いそっちのけでおばさんたちが群がっては好き放題に話しだす。
「キューちゃん、やっちゃん帰省しないの?」
「まぁ、やっちゃんがしたくなくても、絢子さんはさせたいわよねぇ!」
お互いで話が解決するなら勝手にやってくれ、と言いたい気持ちになりながら九治は適度に頷き、「焼き鳥、頼まれてるんで……」と言葉を濁した。するとすぐさまあちらこちらへと、おばさんたちは散った。戻ってきた彼女らの手にはプラスチックのパックにみっちりと詰められたフランクフルトやお好み焼き。買う焼き鳥が少なく見えるくらいの量を持たされる。
気だるい暑さが続く夕方の家路を、九治は立ち昇るソースやケチャップの香りにまみれながら歩いた。
「俺を肥やしてどうする気だ……」
体型からは想像できないくらいの大食漢だった八雲のいない時に、この大量の食料をどうしろというのか、と思い九治は強めに息をついた。
それと引き換えに吸い込んだ空気には、やはりソースとケチャップの香りが染みついていた。
「縮んだなぁ、ヤクモ」
兄の名前を呼んで九治を見つめる、カラスと本気で喧嘩していた男を一瞥して、九治は知らんふりをして歩き始める。八雲、という名前は兄がそこで産まれたから、という至極簡単な理由でつけられたものだった。しかしそれでは理由を説明する時に困る、と相談してスサノオが詠んだ最古の和歌から取ったのよ、などと博識っぽいような理由をこじつけて説明したらしい。それを素直に信じ、小学校でそう八雲が口にする。教師になりたての若い女教師は、それにいたく感動して学級通信に載せたものだから、これまた傑作である。
彼女が悪いのではない。だけども、新任の女教師が正直に信じて持てる限りの言葉で、家庭でこじつけられた子どもたちの名前の由来をこと細かに記すその様子。それを何より母たちが笑っていたのだから、九治が少しどうこうしようと許されるのではないかと、思っただけである。
九治はそれを、母から聞いた。事実は単なる産地(というのも変な響きだが、確かに絢子はこう言った)、ということも含めて。八雲は、八雲産の息子なのである。
ちなみに、男二人に妹一人の三人兄弟だというのに、八だとか九だとかいう数字がついているのには、それなりに意味があるらしかった。「八は末広がり、とスサノオから取ったの」と言って絢子は笑う。末広がりはまだしも、スサノオについてはもうこれ以上どうこう言う必要性はない。しかしあえてもう一度強く印象付けるために九治は思う。そう、こじつけなのだ。
その後に、「九は一けたのなかで一番大きいでしょ。それを治めるのよ、凄いじゃない」と言われても、困るのだ。「そうか」とは、九治も納得ができないわけではないが、微妙な心境はわかるだろうか。そもそも、「九を治める」とは何か。さらに突き詰めれば「九」とは何か、と聞きたくなる。妹の十和子にはハッキリと「八、九ってきたら十でしょ」と言ったくせに、なぜだか息子の前では見栄っ張りな母だ。ちなみに父である英治には聞いたことがない。語らせると、きっと母以上に見栄を張ろうとする父だから。
そんなことをぼんやりと思いだしている間にも、ヤクモ、と呼ぶ声はとまらない。少し掠れた声だというのに、やたらと大きいそれに耳を塞ぎたくなった。けれども、九治がそんなことをしたところで、どうなるとも思えない。仕方なくがっちりと視線を合わせて、眉根を寄せながら「誰だよ」と一言だけ口にした。
木の葉の間から射す日は強い。最高気温は三十にプラス三。珍しいまでの暑さにだらける暇もなく、九治は家から叩きだされて今この山道を歩いている。近所の人からもらった桃を切ってタッパ詰めしたもの。お中元で来た水ようかんが三つ。入った袋から甘いにおいがするか、と聞かれても別にしなかった。ただ、九治の鼻先を掠めるのは青臭い草の香りが混じった風だけだ。汗をかいたせいで額にくっついている前髪にその風が強く吹くたびあたって、一瞬の沈黙を九治は感じた。
「ヤクモお前、また忘れたのか!」
すぐにそれは破られる。でかい声で叫ぶな、と言ってやりたい、と思いながら負けじと声をはって「俺は兄貴じゃねぇよっ」と返した。
まずい、と九治が思った頃には遅かった。
八雲の弟だという事実を知った男は、目を丸くしてそれから数秒も経たないうちに辺りを見渡して、耳に手を当てて何かを聞きとろうと真剣な表情を見せた。そしてそれらを終えて「ヤクモは、ここから離れたのか……」と、口にしたかと思うと少しさびしそうな顔をした。
「お前、兄貴の何なんだよ……クラスメイト?」
「くら、くす、くすらめと……。なんだ?」
訝しげに聞いた九治の言葉を理解できなかったのか、並び替えて別の言語を生み出そうとする男に首を振る。
「あぁー……同級生?」
「……ヤクモと俺は、親友だ」
横文字が苦手なのか、という解釈で九治が再度問い直すも、男は数秒黙って最初の問いの答えだけを返した。つまりは、クラスメイトだとか言う枠組みではなく、兄の親友として自分を見ろ、というアピールなのかもしれない。
九治はお得意の自分の中で勝手に解決をして、へぇだとかふぅんだとかいう気の抜けた声で返事をして、立ち去ろうと歩みを速めた。
「待てよ、キュージ!」
「……ッ!」
(兄貴め、余計なこと言ったな。)
そう心の中で舌打ちしながら、掴まれた手を振りほどく。掴まれた瞬間、九治は自分の大ぶりではないけれども小ぶりでもない手が小動物になったような感覚をおぼえた。まるで、鋭い爪で捕えられたような。そんな、強さを感じたのだ。
振りほどいた男の手は、あっさりと離れた。
「なんですか」
思わず敬語になったのは、八雲の親友なら同い年くらいだろう、と思ったのもある。もちろん、手を掴まれた瞬間に莫大な力の差を感じとったから、というのもある。どちらも含めて、思わず敬語になった、ただそれだけだった。
「さっきみたいに、気軽に話せ。ヤクモも俺より年下だけれど、そうした」
「あ、あぁ……。あぁ?」
盛大に聞き返したその瞬間の顔がよほどおもしろかったのか、男は手を叩いて笑ったかと思うと、「キュージ、いいなぁ!」とよくわからない評価をくれた。悪い、と言われるよりかは良いか、と思って九治は黙っておくことにした。
「山に、親友だって言ってる変なヤツいるけど」
帰省したての八雲に九治が発した第一声が、それだった。近くに誰もいないのを確認して、そう切り出した。八雲は、数秒考えるような間をとる。とってから、少し眉根を寄せて「……会ったのか」と問いかけた。その表情がいつになく真剣で、九治は少し驚きながら、頷く。
「十和子は……」
「いや、俺一人だけど」
言い淀んだ八雲の言葉を理解して答えると、安心した顔を見せて「そう、そうなのか」と八雲が頷く。十和子は絢子か英治と共にでないと、山の中にあるはな江の家に行かない。八雲が大きくなってからも、それが揺るがなかったのには、理由がある。はな江が絶対にそれを許さなかったからだ。
「ばあちゃんいつも言ってるだろ、十和子を一人で寄こすなって」
「俺やお前がいっしょでも、ダメだしな」
「ホウキ振り回した人に、追っかけられたくないから」
そう肩をすくめて、ため息交じりに言う九治に、八雲は少しだけ表情を崩して笑う。わずかに緊張していた場の空気が、和らいだ。
「……ばあちゃんの所、行こう」
普段通りの表情に戻った八雲の言葉に、九治は黙って頷く。あの妙なヤツのことも気になったし、そろそろ理由を知りたかった。十和子が大人と一緒でないと山に入れない、その理由を詳しく知っても良いと思った。
麦茶に入った氷が解けて、ガラスのコップにぶつかって音をたてる。強い日射しは木の葉が遮って、涼しげな風が吹く。扇風機がその風をさらに強めるために、ゆるりと回っていた。
「八雲が離れて、九治があたしのところに来るようになった時から、こうなる時がくるんじゃないかと思ってはいたけどね」
はな江は一人熱い緑茶をすすってから、九治と八雲を一度ずつ見つめた。はな江の目に見られると、悪いことはしていないのに萎縮する、と八雲は思う。九治が正座を崩さないのも同じような状態だからだと、信じている。
彼女の娘である絢子も、はな江の前だと豪快さが少し減るようなところがある。
「……十和子だけは、やれないよ」
「誰に、ですか」
間をおかず問いかけた八雲をじろりと見て、はな江は数秒そのままの状態を保つ。そして、息を強めにはいた。
九治は、隣で八雲がもう一度問いかけようと口を開いた空気を感じ取った。
「十和子の前に誰が、誰に、やられたんです」
九治にとって、八雲の発した「やられた」は、はな江の発した「やれない」とはまったく意味の違う響きを持っていた。八雲の方は、既に誰かに侵犯を受けたような、そんな響きがあった。対するはな江は、絶対に「やれない」のだと、決意を込めて呟いている。九治には、そう感じられた。
「お前と、九治が会ったアレに、だよ」
「アレなんて、言わないでください」
はな江は、誰がやられたか、という問いには答えなかった。そのかわり、嫌悪するように「アレ」と、誰にの部分を明らかに口にするのを避けた。
それにまた間をおかずぴしゃりと言い放った八雲に、はな江は返答せず黙って緑茶をすする。アレとはきっと、あの八雲の親友だと言っていた男のことだろう。八雲がはな江に対して顔をしかめて発言を咎めたのを見て、九治は理解した。
(親友なのは、嘘じゃなかったんだな)
「八雲、何を言われたか知らないけれども、取り込まれたら終わりだよ」
終わり、とはな江がそう口にした一言に、九治は背筋が寒くなった。彼女が八雲をきつめに睨むような視線を送っている。それは珍しいことだった。八雲が人から怒りの感情を向けられている。そんな光景を、九治は今まで数えられるほどしか見たことがなかった。
「十和子がやれないのなら、烏丸は誰を貰えば良いんです」
「誰もやらない、そう言ったつもりだったけれどね」
それとも、お前がいくのかい。
慣れない正座で痺れた足の左親指が跳ねあがる感覚が、九治はいつもよりずっと強くすると思った。そのせいでじんわりと筋肉が麻痺するのは、なぜかほとんど感じられず。ただ、息をするという行為を忘れないように続けるのに懸命だった。
十和子を貰うために、山にいたとは、思えなかった。
「カラス、マル……」
八雲が口にしたのとは少しも同じ響きを持たないそれを、九治は口にした。してから、あの得体の知れないものを何の違和感もなく呼ぶ八雲が、怖くなった。どうしてそう呼べるのか、わからない。わからないからこそ、余計に八雲が怖くなる。九治の脳内を占めるのは、それだけだった。
扇風機のタイマーが切れたのか、ハチが近くを飛んだような音が静かな部屋に響く。九治の意識はそこで外に向かい、窓の外にある庭に植えてある桜の木を見て、喉を震わせた。喉が震える。空気を吸うような音がかすかにしたのを聞き逃さなかったのか、八雲が九治の横顔を見ている。そして視線の先を追って、「烏丸!」と大きな声で呼んだ。
「ヤクモ、キュージ!」
笑って手を振る。その姿に恐怖をおぼえて九治は拳を握った。悪意はない。ないからこそ、恐ろしいのだ。怖がる九治の拳の上にそっと、ひやりと冷たいけれども、安心する手が触れる。はな江は木の枝にいる烏丸を、八雲を見たようなのとは比べ物にならないほど強い視線で見つめていた。
「隠れるために、樅山となったのに……あなた」
五十年も保てなかったわ、と呟く彼女の皺のよった細い手を握り返すこともできず。九治は八雲の背中を見つめることしか、できなかった。
「フクロウを狙うカラスは、もう、男か女かなんて大した問題じゃない」
事情を一切知らされていない九治は、噛みしめていた乾いている唇をようやく開いて、「……十和子じゃなくて、よかったのかな」と口にした。
それを間違いなく聞いているはな江は、静かに首を振って「誰も、やらないと言っただろう」とそれだけ口にした。
良く通る思い出の大きい彼女の声は今、微かに震えていた。
八雲は、どうなるのだろう。
九治はあの時山で烏丸が見せた寂しげな表情に、並々ならぬものを今更ながら感じ始めた。あんな顔を見せるほど、八雲が大事な親友なのだと。それなのに、はな江の話を聞けば聞くほど、八雲が親しげに「烏丸」と呼ぶほど。
不安が増していった。
「フクロウはね、カラスに恨まれているんだよ」
「……それ、昔よくじいちゃんが話してた」
一定の期間から話されなくなったそれを、今この瞬間に再び口にされて、九治は嫌な予感を拭いきれないまま、思い出を口にした。はな江が、頷く。頷きによって、より増した状況の悪さ、流れる冷や汗。
嘘だ、と口を微かに動かすだけ。ここまでの状況だけで、九治はもう脳内のキャパシティのほとんどを奪われてしまっていた。
「そうね、お前たちには昔話として、話していたわね」
「現実、なんだ」
苦々しく口にした九治に、そうね、とはな江はもう一度肯定の言葉を発した。口内が渇いて、麦茶を飲もうと思ったけれども、既に空だった。氷が融けて、わずかな水となっている。それを口にする気にもなれず、九治は全然湧きだしもしない唾を飲み込むように喉を動かすことだけはした。
フクロウは、カラスに恨まれている。
それは、幼い八雲と九治に祖父がよく語った昔話だった。今の状況と合わせて語れば面倒なことになる。だから九治はとりあえず、昔話だったそれだけのことを考えている。
白い鳥だったカラス。
美しい姿に焦がれてた。
フクロウの染物屋へと羽ばたいた。
「綺麗な色に、しておくれ」
白い羽出し、そう言った。
フクロウ考え、考え抜いた。
黒地に金銀、模様を描こう。
きっと綺麗になるだろう。
ところがフクロウ、言わずにやった。
カラスの全身、闇に紛れる黒へと塗った。
怒ったカラスに追い掛け回され、夜しか表に出られない。
カラスは今も、怒ってる。
怒ったカラスは、神様の使い。
神様に言ってフクロウを、傍に置いておくことにした。
フクロウ逃げる、カラスが追う。
日の高いうちに山へ入るな。
カラス、カラスが狙ってる。
「なんで、家が関係あるんだよ」
幾分落ち着いた、というか半ば諦めたような声で、隣のはな江に九治は問いかけた。はな江も、普段通りの姿に戻り、あっさりと口を開く。
「樅山家はね、フクロウの末裔なんだよ」
その到底信じられない内容の言葉を何でもないように口にした彼女に、思わずそのまま頷きそうになり、首を振る。違う、違う、と振ってから眉根を寄せて「末裔……」と言った九治に、はな江は「ご先祖様が、フクロウなんだよ」と説明を加えたが、言いたいことはそうではない。
フクロウはどうやったってフクロウであり、人間ではない。そう言いたい。
傍に置いておくことにした、フクロウ。その末裔が、自分たち。
染物屋でもないのに、フクロウの一切の文字を含まない苗字なのに。
「なんでだよ、なんで……」
「モミヤマは、フクロウの種類だ」
少し苛立ったように口にした九治に答えたのは、はな江ではなかった。八雲の傍に立って、笑っている。烏丸だった。
「モミヤマフクロウから、ヤクモやキュージのじいさんは苗字をとったんだ」
だろう、と意地の悪い笑みを浮かべて、烏丸ははな江を見つめながら問いかける。はな江は何も言わない。ただ、隣部屋にある薙刀をいつ取り出して振り回さないか、九治はひたすらに心配になった。
まさに、一色即発とは、この空気を言うのではないだろうか。
「この、色ボケじじいめ!」
はな江の発した驚くほど激しい悪口に、九治だけでなく八雲も目を丸くした。なおも笑っているのは烏丸だけで、はな江は鼻息荒く、その勢いで「孫と同い年の風貌して誑かそうだなんて、いい度胸してるじゃないか!」と床を拳で叩いた。その振動が痺れた足に伝わって、九治の足にまたじわりと麻痺の感覚が広がった。
「じじいに孫が誑かされたら、もっと嫌だろうに」
ハナエは変わってるなぁ、とのんきな声で烏丸は口にした。
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