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そんな元気はありませんでした
暑さに弱いんですよね……
いや、今年はほんとどうしたのだろうと言いたくなる感じでした
さておき、一作品書きあがったので
載せようと思いました、が
どうしようもなくがっつりベーコンレタスなので
あ、ベーコンレタスの意味がわからない方は見ない方が賢明です
わかったとしても、嫌だ、という方も見ない方がよろしいです
というか、見ないでください、お願いします
作品内で言及している他作品や実在の人物さんとは
なんの関係もありませんので、ご理解願います
だいじょうぶな方のみ、追記に作品がありますのでどうぞ
【ヒマワリ嫌いの夏嫌い、最低なヤツは山本と俺。】
「夏なんて、嫌いだ」
まぁ、俺も夏なんてものは、あまり好きじゃない。
暑い。だるい。蒸している。虫が異様に元気。
夏が好きな奴も元気。夏が嫌いと言う奴も、元気。
ようするに、この目の前にいる奴が妙な元気さで生きてる感じがするのだ。だから、あまり好きじゃない。俺の基準はコイツなのか、と聞かれれば首を横に振ろう、そういうことじゃない。たとえ目の前にいるのが誰だろうが、こういう状況だとしたら俺は同じく夏はあまり好きじゃない、としただろう。
「日本の四季は、悪かない。でもな、夏はいただけないんだよ、夏は!」
ワイシャツの前をだらしなく開けて、ぱたぱたと空気を取り込もうと必死な目の前の奴が言った。制汗スプレーのシトラスっぽい匂いが空気に混じってただよう。夏の空気は重い。湿気を含んでるからだと思うが、どうにもいただけないくらい重い。
「お前、誕生日いつだっけ」
夏生まれかどうか確かめようと、ふいに質問する。急になんだよ、と言いながら律儀に答えるあたり、コイツらしい。
「6月の12日だよ、ゴジラと一緒!」
ゴジラって、あの怪獣に誕生日とかあったのか。少し感心した顔を見せるこっちを見て、なにか思ったのかまた口を開く。
「ゴジラって、野球選手な」
「なんだ」
雑学が増えたかと思ったのに、と肩を落とす。そんな姿を見ながら「俺の誕生日がゴジラと一緒ってことに、少しは関心持てよ」と呟かれた。
あぁ、そういや中学は野球部だったか、と目を見る。
ポジションはどこだっけ、と一瞬考える。そう、ピッチャーだった。エースで四番。野球漫画で言うところの典型的な主役だったんだ。待てよ、エースで四番……。
「ゴジラよりは、ゴロー君タイプだろお前」
「は?」
頭の中で結論が出たからそのまま言ったら、聞き返された。ものすごい間抜けな表情で。なんだ、メジャー知らないのか。
「夏生まれだけど、夏嫌いなのか」
思い切り話題を変えたこっちを微妙な表情で見ながら、頷く。
「そうだよ。てかな、冬生まれでも寒がりなのと一緒だっつの」
暑がりなのか、という質問はやめた。どう見たって暑がりだろう。ワイシャツの前は大きく開いて、首筋にうっすらと汗がにじんでいる。男らしい暑苦しさ、っていうよりはなんとなく色っぽい。そう一瞬でも思った自分の頭は暑さで湧いてしまったらしい。
かなり重症だ。あと少しこのままなら、次の症状としていけない行動を引き起こしかねない。お前は涼しそうでいいよな、なんて言葉には適当に返事した。それがあぁ、だったか。まぁな、だったかすら定かでない。
既に重症じゃないかという言葉は、頼むから口にしないでほしい。夏っていうのは、いろんな間違いが起こる季節なんだって誰かしら言うだろう。口にもせず行動にもしない些細なもんだ。許してくれ。
心の中でひそかに思ったが、待てよと同時に思考が止まる。そもそも、そういった趣味はないんだから堂々としてればいいんじゃないか。あくまでも、女の視点で見たら、っていう話をしたいんであって。炎天下の日に教室で二人きり、なんてシチュエーションはまずいよな、女性陣。
そもそも、なんで夏期講習にうちのクラスのやつらは来ないんだ。もうひとつおまけに言うなら、なんでこいつは来てるんだ。
「お前、夏期講習とかちゃんと出るタイプだったんだな」
「家にいると、手伝いが全部こっちにくるんだよ」
姉貴が大学に行ってバイトあるからって帰ってこないから、俺がいると全部やらされんの。ご丁寧に理由まで説明されて、とりあえず頷いておく。
「ヒマワリに水やりなんて、めんどくてめんどくて」
「庭にヒマワリ咲いてるのか」
夏らしくて結構だな、と言ってペットボトルに入った水を呷る。喉を存分に鳴らして満足してから顔を戻すと、これまた嫌そうな顔を見せられた。口の中に水が入ってたら、思わずぶっかけるくらいには凄い顔。凄い顔とういか、もうひどい顔。
「ひどい顔だな」
「うっせ」
思った通りの感想には、苦々しい言葉が返された。目の前にある顔には明らかに元気がなくなって、さながら水やりされないヒマワリなんてこんな感じじゃないかと思う。言ったら当然怒るだろうから、言わないが。
「ヒマワリが嫌いか、そうか」
「きらいだよ」
笑いながら、水やりしてそうなのにな。
多分ヒマワリの似合うコンテストをこの学校でやったら、ダントツ一位はお前だと言い切る自身が俺にはある。まぁ、言い切れるのは人間関係がさして広くないからかもしれないが。
心の中で思いながらぼんやりと外を見る。陸上部やら野球部やら、頑張っていた。こいつも余計なこと考えないで部活やれば、ヒマワリのことなんて考えなくていいんじゃないだろうか。というか、嫌いなら考えなきゃいいのに。
でもそう言えば話を振ったのは俺だった、と内心気まずくなった。
「種食えたり、油になったりは凄いけどさ、俺はハムスターとか鳥とかじゃねぇし」
呟くように、と言うよりかは通る声で話し始める。
まぁ、高校二年間を他の同級生よりか一緒に過ごしたから、わかるんだが。追い詰められると、饒舌になるタイプっているだろう。おそらく、それに当てはまる。こいつ、なかなかに面倒だ。
「密集して咲いてて、黄色いから目がちかちかするし。そろって同じ方向向いてて気味悪いし」
その内静かになるだろうと思って、聞き流す。
「ヒマワリ見て俺が嫌な顔しようが、自分の下で何が死んでようが気にしないで咲いてて……」
止まった。一気に喋るもんだなとか、ぼんやりと思ってはいたんだが。そっと手を伸ばす。生活指導をしている体育教師によく目をつけられてるこげ茶色の髪は、半年前に別れた彼女より柔らかかった。
「なんだよ」
「いや、家の裏に住んでる老夫婦が飼ってる犬に、手触りが似てる」
なでてる手を振り払ったりはしないあたり、やっぱり甘い。
そのまま口の端をあげて笑うと、不可解なものを見るような顔つきをされた。
「意味がわからん」
「いいんだよ、わかんなくても」
俺のことバカにしてんだろ、と目の前のコイツはぶすくれて顔を伏せた。そういう顔するから、構い倒したくなるんだろうが、学習しろよ、とは言わないでおく。言って学習されたらつまらないからだ。俺は俺が楽しい状態でいたいし、この状況をコイツが賢くなることで崩されたくない。
「……ヒマワリ、好きか?」
そういう声出すなよ、バカじゃないのかお前。ひと夏の間違い起こすぞこの野郎。なんてとこまで、喉元のギリギリまで出かかって、咳にした。ひと夏で済む、って断言できないからだ。
これぞ世の中の不条理。暑さでどうにかなった方が負け、ならなくて間違い起こされた方が勝ち。誰だかだって言ってる。そういった感情でもって誰かをその時見たら、もう事をしてしまったも同然だと。その時頭でどうこうだ、なんて言うけれどもちなみにこの現象、異性間の話でしか書かれていないが。なぁ、これって同性でもあてはまんのかな。
「死にたくなるほど……」
そこまで言いかけて、止めた俺を驚いた表情で見てる。驚くだろ。俺も予想外だ。安心したいような表情やめろ、すぐ嫌な顔になるんだから。
「好きだ」
好きなのはイコールヒマワリな訳であって、俺の心からの想いが届く訳もない。だからあっさり口にできるってことだ。
針がそろそろ、次の講義の時間を刺そうとしてる。苦手な古典だ。現代文を教えてる若い臨採の先生なら、出たかもしれない。だけども、声のでかい中年オヤジの教える古典だ。この暑い日に、他にほとんど受ける奴がいない古典、受けるのか。
暑い日に、暑苦しいオヤジの暑苦しい講習。
『憂鬱って、こんな気分か?』
贔屓目に見てるからかもしれないが、教え方は臨採の先生のが上手い。若いし、女の先生だし。栗木真知子先生。ようするに、マチコ先生な訳だ。事実、スタイルも抜群でクラスの男子は彼女の授業の時黒板よりも顔やスタイルを見ている。最低だ、と罵られようとも、自然と目が行くのだから仕方がない、と力説していた男が、隣のクラスからちょうど来ていた自分の彼女に思い切り静かな声で「マジで最低」と言われていたのを思い出す。
今朝一瞬だが、爽やかなフレアスカートをひるがして歩く彼女を見た瞬間後悔した。ほら、俺だってちゃんと男子。
なんで、古典にしたかな。
『現代文とっておけばよかった』
講習代は自分の懐から出るから、なんてケチったのが裏目に出た。
「あー、次マチコ先生の現文か……めんどい」
「あ?」
「……ん?」
一瞬の間がおかれて、その時急激に蝉の鳴く声が大きくなった気がする。気がするだけで、実はさっきからうるさい。たぶん。
「めんどい?」
「……ん、めんどい、かな」
濁すように、曖昧に言いながら、少し期待するような響きの言葉。コイツはだから俺のツボとか、弱点とか知り尽くしてるんじゃないか。相変わらず良い攻撃だ。
「俺も、めんどい。次、古典のガミだし」
素直に言えば、俺もお前とサボりたい?
なんて言えるわけないので、婉曲戦法にしてみた。どうだっていいか、そうか。
「……図書館、開いてるよな」
その呟きに落ちつき払ってそうだな、と言うけれど心臓が痛い。あ、いやなんか具合悪いとかじゃなくって。鳴る回数は決まってて、回数を越えたら寿命だ、とかなんの番組でいつの時代にやってたか忘れたけど、聞いたことくらいあるだろうか、もし俺がこのままの状態ならあと何年持つかなんて、簡単すぎる、たぶん十年いかない。
「……いきたい、とか」
言ったら笑うか、と一瞬視線を向けられたが、そろそろ血液が沸騰しそうだ。青少年には刺激が強すぎる。意味がわからない、と言われるのは百も承知。むしろ俺以外全員そうであれ。全て聖人であれ。
声が震えないようにするので、せいいっぱいだ。腹に力を入れて目の前の奴に言ってやる。
「むしろ色んな意味でバッチコイ」
「どんな意味でだよ?」
すぐされた切り返しは華麗にスルーで、ペットボトルを教室端のゴミ箱に投げ入れる。ナイスシュート。
「……俺もいきたい、って意味で」
無視かよ、とか言いながらワークやらなにやらカバンに突っ込んでる音にぎりぎり消えるくらいの音量で呟いた。
あぁ、なんて最低だろう。
同じクラスの山本の彼女よ、お前の彼氏も最低だが、俺の方がもっと最低なんだよ、知ってたか。
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